Fat Tuesday Air Line
Gospel Music
Whatcha Lookin'4
/Kirk Franklin & the Family
 ゴスペルを愛する人の中で、彼の名前を知らない人はまずいないだろう。クワイア・ディレクターでありソングライターであり、名プロデューサーでもあるテキサス生まれのこの男を! 93年リリースした1stアルバム「Kirk Franklin & the Family」は、ゴスペル界初の100万枚突破、プラチナディスクを獲得し、二枚目のクリスマスアルバムは14週で50万枚を突破。そして波に乗ったカークが95年に送り出したのが、3枚目のこのアルバム「Whatcha lookin'4」だ。

 このアルバムは売れに売れた! ビルボードで23位、コンテンポラリークリスチャンチャート、ゴスペルチャート、R&Bチャートでそれぞれ1位に。またまたプラチナアルバムになり、とうとう第39回(96年)のグラミー賞でベストコンテンポラリー・ソウル・ゴスペルアルバム部門のグラミーアワードを獲得した。このアルバムがすごいのは、なんといっても、R&Bチャートで1位を獲得しているという現実。カークが、ゴスペルをひとつの音楽として、クリスチャンだけでなく、ノンクリスチャンにも広めた音楽界の革命児であることは間違いない。

 もちろん、名曲がそろっている。ほんとに心に染み入るメロディアスな曲にクワイアの声の持つ起爆力。曲によってそこにHIP HOPの要素を入れ込んで、ガッツリ歌ってガッツリ泣かす! このアルバムを境にますますHIP HOP色が強くなるカークだけど、その根底にあるのは、やっぱりメロディのよさと歌詞なんだな〜と思う。入りやすい歌詞と、繰り返しの多いサビ。そういうところもちゃんとゴスペルの基本にのっとってるし、なによりメロディがほんとにいい! ピアノやキーボードの音色もすごく生かされているし、コンテンポラリーなブラックミュージックとしてR&Bチャートをにぎわせたのもよくわかる。私もこれ、発売当時に即購入し、聞きまくりました。

 静かにクワイアが歌いはじめる「Savior more than life me」に始まり、2曲目のタイトル曲「Whatcha lookin'4」ではHIP HOPファンクテイストですでにGod's Propertyをにおわせるものがある。「Melodies from Heaven」では、会場一体となって(このアルバムはライブ録音なので)大合唱。その後も彼独特の美しく泣かせる美メロなゴスペルがたっぷり聞けるのだ。もちろんそこにはJesusへの愛もたっぷりつまっているのですが、なかにひとつママへおくった曲「Mama's song」もあります。これは彼がピアノ1本でしゃがれた声で歌う、ちょっと泣ける曲。
 彼の生い立ちはちょっと複雑。15歳の未婚の母のもとに生まれたカークは、3歳のとき64歳の叔母の養子に。ママは彼を捨てていったんですね。そのママを思い、そしてまた彼のそばにはJesusがいてくれたという生い立ちゴスペルソング。
 
ただ、カークが今こうしてスーパースターになった陰には、叔母さんのチカラがなくては語れないのも確か。叔母さんは、カークを教会へ毎週連れて行き、そして彼の音楽の才能を見抜き、空き缶集めをしながらカークのピアノレッスン費用を作ったそうです。カーク自身もその才能を遺憾なく発揮し、11歳でクワイアディレクターに抜擢。一時ちょっとぐれちゃったりしたそうですが、仲間の一人が銃で撃たれて死んでしまったことから、また教会へ戻り、ミュージシャンとしてJesusからさずかった音楽という才能のギフトを生かす道を選んだという。自分もまたガールフレンドとの間に子供ができてしまって、その養育費のためにピアノのセールスもやっていたといいますし、人間くさいとこもまたいいじゃないの!と思うのです。

 数年前の8月、ブルーノート大阪にカークがやってきたとき、とても小さなその姿にびっくり。160センチくらいしかなくて。でも、白いスーツを身にまとった彼の動きは情熱的で笑顔がナイスで、ほんとにかっこよかった。
その数ヶ月後、場所はニューオリンズ。
ホテルのフロントに40枚近くコピーを頼みにいった時、そのフロントの黒人女性といろいろ話をした。音楽が素晴らしい街だね、と私がいうと、どんな音楽が好きなの?と聞かれたので、私は「ブラックミュージック、ゴスペルが好きだ」と答えた。ミシシッピ・マスクワイアや、カーク・フランクリンもいいよね、などというと、彼女が突然、「Melodies from Heaven〜」と歌いだした。おお!と思い、私もあわせて大合唱!(サビだけ・笑)。
時間は深夜2時。あと2時間で帰国のためこのホテルを発つ私にとって、この深夜の大合唱は、ニューオリンズからの最後の贈り物だったような気がする。そして、それはカークフランクリンの歌の持つ強さと、このプラチナアルバムの浸透力がはっきりわかった瞬間でもあった。